腎臓病の食事治療
- 腎臓病の食事療法の歴史
- あなたの腎機能(GFR)は、どのくらいか?
- タンパク質制限と言うけれど
- カロリーはどうするの?(糖尿病を合併していたら)
- 塩分はどれくらい?
- カリウムとリンの話
- 食事療法の評価と管理栄養士の役割
- 実際の料理動画を見てみよう
- 料理本が発刊されました
始めに
腎臓病を指摘されたときに、<自分で何かできませんか?><どうゆう事に気をつけたらいいですか?><どうすれば、良くなりますか?>と聞かれることが、多くあります。
自分でできて、気をつけなければならない事に、食事があります。食事は、すべての治療の前に基本となるものです。
しかし、この食事療法を理解して、続けるのは、難しいのが現状です。それは、食欲は人間の欲の一番強いものであること、食事療法の内容を理解するのが難しい事、理解しても実際に調理して、食事を作ることが大変なこと、そして、患者さんの状態は一律ではなく、腎臓障害の程度に応じて、食事療法の内容が違うことです。
腎臓病の食事療法で悩んでいる患者さんの少しでも助けになればと思い、このページを立ち上げました。
1)腎臓病の食事療法の歴史
腎臓病の食事療法は、100年以上前から報告されています。腎臓が傷害されると、体に毒素(尿素)がたまり、症状を示す尿毒症の記載は、1847年には報告されています。タンパク質は、アンモニアに代謝され、最後は尿素となり、尿に排出されます。そのため、1850年頃から、タンパクを制限した野菜食などが、治療に用いられました。それから20世紀までに低蛋白食が、腎不全の進行を抑制し、症状を軽減することが分り、基本的な治療法として確立されました。
ただ、あまりにタンパク質を制限しすぎて、摂取カロリーが低下すると、死亡率が上昇することも分りました。腎障害の程度によっても、摂取タンパクの量について、効果が違うことも分ってきました。加えて、近年は腎障害患者の高齢化も進み、食事療法の内容も変化してきています。現在の食事療法の実際について、順次説明していきます。
2)あなたの腎機能(GFR)は、どのくらいか?
腎臓障害の重症度は、GRF(糸球体濾過率)と尿タンパクの量で、決められています。そのうちで、食事療法の基本となる値は、GFRです。GFRは、簡単に言えば、腎臓で作ることのできる原尿量を示しています。重症度をステージ分類して、軽度(G1)から末期(G5)までに、左記のように分類されています。(日本腎臓学会CKD診療ガイド2012)
GFRは、簡単な採血で求めることができますので、ほとんどの医療機関で測定可能です。患者さんは、かかりつけ医に自分の腎障害がどの程度なのかを、定期的に聞いて確認して下さい。
札幌南一条病院
*GFRを計算してみよう
3)タンパク質制限と言うけれど
血液・腹膜透析では、0.9-1.2
過剰なタンパク質の摂取が、腎機能を悪化させることはよく知られています。その機序としては、タンパク質摂取により腎臓に負担がかかるためと考えられています(糸球体過剰濾過説)。腎臓学会でも、1日1.3g/kgBWを超えないことが、目安とされています。
GFRが60より低下すると、タンパク質制限が始まり、腎機能の悪化に伴い、制限が強くなります(慢性腎臓病に対する食事療法基準2014)。ただ、1日0.6g/kgBW以下の超低タンパク食に関しては、効果があるとするものと、死亡率が逆に増加するとの報告があり、一定しません。特に高齢者では、食事摂取量そのものが低下している場合があり、食事制限が栄養障害を起こすことに注意が必要です。
日本人の食事摂取基準における推奨されるタンパク質摂取量は、男女とも1.0g/kgBWです。軽度の腎機能障害の場合は、過剰に摂取しないことを心掛け、通常のタンパク質摂取量でよいと思われます。腎臓障害が進むにつれ、タンパク質を制限しますが、通常量の25%ほど少なくする目安でよいと思います。いずれにせよ、タンパク質制限は、年齢や体格、腎臓の機能などを参考に、柔軟に対応することが求められます。
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4)カロリーはどうするの?(糖尿病を合併していたら)
腎臓学会が推奨するエネルギー摂取量は、25-35kcal/kg標準体重とされています(慢性腎臓病に対する食事療法基準2014)。この値は、欧米のガイドラインとも、ほぼ一致しています。標準体重とは、BMI(体格係数)で、22に相当する体重のことです。
35kcal/kgを超えると肥満や糖尿病が悪化して、BMIが30以上となると、腎機能を傷害することが分かっています。逆にBMIが20以下となっても腎臓障害のリスクが上昇します。タンパク制限下でも、35kcal/kgのエネルギーで十分と考えられています。健常な日本人の食事摂取基準では、成人男性25-42kcal/kg、女性25-40kcal/kgで、炭水化物割合50-65%とされていますので、標準体重が維持されていれば、同様の摂取量でよいと思われます。
糖尿病を合併している場合はどうでしょうか。日本糖尿病学会2019ガイドラインでは、エネルギー量の算出は、目標体重×エネルギー係数で計算されます。目標体重は、65歳未満ではBMI22、65-74歳では22-25、75歳以上では25に相当する体重とされています。エネルギー係数は、軽労働者25-30kcal/kg、普通労働者30-35kcal/kg、重労働者35kcal/kg以上を用います。つまり、年齢と活動能力で、調整されています。
腎臓病の患者においても、エネルギー摂取量は、年齢と活動量で、補正することが重要です。つまり、高齢でフレイルの予防が必要な場合は、BMIをより高くした標準体重を基準にして、エネルギー摂取量を増やす必要があります。
5)塩分はどれくらい?
腎臓病患者では、食塩摂取量が多いほど、血圧は高く、尿蛋白量は多いことが知られています。そのため、腎臓学会によれば、慢性腎臓病の患者に推奨される食塩摂取量は、3-6g/日とされています(エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018)。
一方、3g/日未満の過度な減塩では、死亡率や血管イベントが上昇することが示されており、推奨されていません。食塩摂取量と総カロリー量やタンパク摂取量は、正の相関を示すとされ、減塩が栄養障害を引き起こす可能性があります。特に、高齢者では、栄養障害に加えて、脱水や低血圧を生じる可能性があることに注意が必要です。
日本人の食事摂取基準では、食塩は男性で8g/日、女性で7g/日未満の基準が示されています。実際、平均的な日本人は、10-12g/日の食塩摂取があるといわれているのを考えれば、段階的に減少させていくことが必要です。
6)カリウムとリンの話
血液透析では<=2000・、腹膜透析では、制限なし
カリウムは、軽度の腎機能障害では、制限する必要はありません。一般健常日本人に推奨されるカリウム量は、男性3g/日、女性2g/日であり、カリウム摂取が多いことは、高血圧・脳血管疾患・腎臓病の発症を予防するとされています。カリウムの制限が必要になるのは、中等度以上に腎機能が傷害された時(G3b以降)です。
つまり軽度の腎障害では、積極的に野菜や果物を摂取してかまいません。ビタミンを多く含む野菜や果物の摂取制限や、野菜や根菜類のゆでこぼしなどを、一律にする必要はありません。
高リン血症は、腎障害・脳血管障害・死亡率の危険因子とされています。リンの摂取量は、タンパク質の摂取量に大きく影響されるため、タンパク制限により、リンの摂取量は低下します。
一方、消化管におけるリンの吸収は、摂取形態によって、大きく変動することが分っています。植物性食品では20-40%、動物性食品では40-60%、食品加工に用いられる無機リンでは90%以上となっています。タンパク質制限の必要のない軽度腎機能障害患者さんでも、過剰なリンの負荷を避けるため、加工食品やファーストフード、コーラやジュースなどの無機リンの多い清涼飲料水などはひかえることが勧められます。
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7)食事療法の評価と管理栄養士の役割
実際に、患者さんが正しい食事療法を行っているかを評価することは重要です。食事調査方法にはいろいろありますが、最近では携帯に写真を撮って利用する場合もあります。食事調査に加えて、体重変化や血液・尿検査などを併用して、評価することが大切になります。
食事調査では、摂取している食品の種類や数、患者さんの好みや習慣、調味料の種類に至るまで情報は多く、管理栄養士による栄養介入(適切な食形態や食事内容)、つまり具体的な食品や調理方法などの指導が可能になります。
管理栄養士は、ただ栄養素の計算で過不足を指導するだけではなく、食事を楽しみ、ひいては生きる喜びを伝える専門職と思って下さい。日々の食事を楽しくするためのパートナーな訳です。
8)実際の料理動画を見てみよう
腎臓病の料理動画を配信しています。すべての動画は、当院の管理栄養士が内容を確認し、1分間にまとめています。腎臓病だけではなく、糖尿病の治療食も、掲載しております。食材からの逆引きも、可能です。それぞれの患者さんで、病態に合わせて調整して頂いて構いません。この動画が、多くの患者さんのお役に、立てれば幸いです。
9)料理本が発刊されました
■主婦の友社「五感で美味しく味わえる腎臓病改善レシピ」
著者:札幌南一条病院工藤靖夫
■かんき出版「insta.sayakaの毎日作りたくなる!糖質オフレシピ」
著者:三好清佳・椎名希美監修:札幌南一条病院